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グッドイヤーウェルト製法の糸切れ
グッドイヤーウェルト製法の革靴を使用してしばらく経った頃。ふとソールを確認すると、
このように、糸がぐじゅぐじゅになっている。
またしばらく使用していくと・・・
糸が完全に切れてしまっている。
ここであなたはこう思うはずだ。
「やばい、ソールが剥がれてしまうのではないか・・・」
グッドイヤーウェルト製法の革靴を履いているあなたなら、一度はこういった経験をしているはずだ。
糸切れを防げると言われているチャネル仕上げの靴も、結局は時間稼ぎに過ぎない。レザーソールの革靴を使用していると、糸切れは避けては通れないものなのだ。
ではこの糸切れ、修理する必要があろだろうか?
結論:放置しても大丈夫
表面に出ている糸が切れているからと言って、ソールが剥がれることはない。
グッドイヤーウェルト製法はメンテしながら長く使える、耐久性が売りの方法だ。とはいっても、無限にオールソールできるわけではない。普通に使っていたら1〜2ヶ月で糸切れを起こすし、その都度オールソールしていたら靴がだめになる前にお財布がカラになってしまう。グッドイヤーウェルト製法の発明者もそのへんはよくわかっている(多分)。
ということは、2重3重の対策でソールを固定している、ということでもある。
グッドイヤーウェルト製法の構造からおさらい
グッドイヤーウェルト製法は、端的にいうとアッパー×ウェルト×ソールの3点を、それぞれ縫ってつないでいる製法である。
上記の「×」の部分に縫いが入り、1つ目の「×」は「すくい縫い」、2つ目は「出し縫い」と呼ばれている。
ソールから見えている糸は出し縫い工程の糸であるから、今回の「糸切れ」の場合、出し縫いの糸が切れてしまっているということになる。
ここまでの説明を聞いて、「では、糸が切れたらソールが外れてしまう」とお考えかもしれない。しかし、直ちにはそうならない。
糸の代わりを果たす2つの要素
出し縫いの糸が切れた場合に備え、グッドイヤーウェルト製法ではもう2つの部材を使ってソールを固定している。それが「接着剤」と「チャン」である。詳しく見ていこう。
接着剤
グッドイヤーウェルト製法では、ソールを固定するために接着剤が使用されている。
「ちょっと待った、接着剤でソールを固定するのはセメント製法だろ!!」と思うかもしれない。
グッドイヤーウェルト製法では、接着剤は補助的に使用されている。これにより、ソールを横から見た際に隙間なくウェルトとソールが一体化して見えるのである。
特に国産靴はしっかりと接着される傾向にあり、年数を経た靴であっても上記の隙間が空いていることは少ない。
逆に英国靴などの舶来物は年数が経つとウェルトとソールの間に隙間があくことがある。これはオールソール交換の際にソールを剥がしやすいように、との配慮から、意図的に接着を弱くしているのである。
しかし隙間が空いている場合であっても、ウェルトとソールの接着面全体に塗布された接着剤が生きてさえいれば、ソールが剥がれる心配はない。筆者も20年以上前のチャーチで経験済みだ。
したがって、出し縫いの糸が切れていても接着剤がウェルトとソールを固定してくれるのである。
チャン(松ヤニ)
出し縫いの糸には、「チャン」と呼ばれるものが塗り込まれている。基本的には製作工程で糸が切れないようにする処理なのだが、チャンを塗り込むことで糸がバラバラにならないようにするはたらきもある。これにより、たとえ糸が切れたとしても、そこからほつれてソールが分離する・・・という事態を防ぐことができるのだ。
厳密には糸の代わりとはならないが、もしも糸が切れたときのためにソールの分離を防ぐ、という意味では役に立つ仕掛けであると言えるだろう。
それでも気になる!糸切れを防止する方法
とはいえ、出し縫いの糸を極力保護するほうが確実という考え方もできるだろう。そしてそれは決して不可能なことではない。大きくは2つの方法があるのでご紹介しよう。
糸切れしないソールを選ぶ
糸切れを防ぐためにはソール周りの工夫が重要だ。つまり、出し縫いの縫い目を地面に触れさせなければいいのだ。
その方法の1つがソール選びによって可能になる。
ラバーソールの中には、凹凸の大きなパターンを持つソールがいくつかある。たとえば「リッジウェイソール」「コマンドソール」、または一部の「ビブラムソール」が挙げられる。
これらのソールは接地面が限られており、基本的に縫い目は地面に接しない。よって、糸切れを防止することができるのだ。
しかし、上記のソールは凹凸が激しいためにドレスシューズには不向きであることが多い。リッジウェイソールならギリギリいけるかもしれないが、それでもフォーマルな黒のストレートチップと合わせるとちぐはぐになってしまうだろう。かといってダイナイトソールでは縫い目が接地してしまう。
ハーフラバーを貼る
最も汎用性と確実性が高いのがこの方法である。物理的に縫い目を覆ってしまうため、確実に縫い目の接地を防ぐことができる。個人的にはハーフラバーを貼るのはおすすめしないが、どうしても糸切れを防ぎたい方には一番の解決策になるだろう。
また、ソールやコバ周りに厚みが出ないため、たとえ黒のストレートチップでも違和感がない。ハーフラバーは革底を保護する際によく使われるが、糸切れ防止にも有効なのだ。
まとめ
グッドイヤーウェルト製法の糸切れは、出し縫い工程の糸が切れている状態である。
この糸切れが起こっても、接着剤がソールとウェルトをつないでくれる。また、出し縫いの糸に塗られたチャン(松ヤニ)が、糸の分離を防ぐ役割をする。そのため、糸切れ自体は放置して問題ない。
どうしても気になる場合、凹凸の大きいパターンのラバーソールに張り替える、もしくはハーフラバーを貼ってしまうことが有効だ。