マッケイ製法の靴はグッドイヤーウェルト製法に変更できるのか

ローファー

グッドイヤーウェルト製法(左)とマッケイ製法(右)のローファー。同じローファーだが、履き心地はまるで違う

マッケイの靴を愛用しているみなさん。

世の中には「グッドイヤー万歳」とばかりにグッドイヤーウェルト製法を礼賛する記事系メディアに溢れている。

当ブログも、常日頃からグッドイヤーウェルト製法の革靴を皆さんにお勧めしている。

こういった言説を耳にし、「俺の靴もグッドイヤーにできないかなあ…」なんて考える方も多いだろう。

では、マッケイの靴をグッドイヤーに変更することはできるのだろうか。

結論:マッケイ製法はグッドイヤーウェルト製法に変更はできない

マッケイ製法の靴を完全なグッドイヤーウェルト製法に変更することはできない。

正確に言うと、できたとしてもものすごい額のお金がかかる。新品のグッドイヤーウェルト製法の輸入靴が軽く買えてしまうだろう。

しかし、何度も靴底を張り替えて使いたい、あるいは履き心地を改善したいなど、グッドイヤーウェルト製法に近いスペックを得たいなら、「ブラックラピド製法」という選択肢もある。これなら、マッケイ製法からの変更は現実的だ。

マッケイ製法とグッドイヤーウェルト製法の違いをおさらい

ブラックラピド製法の説明にはいる前に、マッケイ・グッドイヤー両者の違いを確認しておこう。

具体的な構造の違いはここでは割愛し、双方の特徴にフォーカスしてみたい。

マッケイ製法

マッケイ製法のローファー

マッケイ製法はアッパーとソールを直接縫い付ける製法である。特徴として、

  • 軽い
  • 返りがよい(屈曲性に優れる)
  • グッドイヤーウェルト製法に比べて、路面の情報をダイレクトに伝える(=クッション性は弱い)
  • オールソールは2〜3回まで(中底の状態にもよる)

が挙げられる。

グッドイヤーウェルト製法

ペルフェットのストレートチップ。グッドイヤーウェルト製法

グッドイヤーウェルト製法は、アッパーとウェルト、中底の3者を「すくい縫い」でつないだ上で、今度はウェルトとソールを「出し縫い」でつける製法である。

中底とソールの間に隙間ができるので、緩衝材としてコルクを詰めることができる。

そのため、

  • 路面からの衝撃を吸収することができる
  • オールソールは繰り返し行うことができる

一方で、

  • 重い
  • 返りが悪い(特に履き初め)

という特徴がある。

ブラックラピド製法とは

一言でいうと、「ダブルソールのマッケイ製法」だ。

具体的な製法としては、アッパーとミッドソールにマッケイ縫いをかけたあと、ミッドソールとアウトソールに出し縫いをかける、というもの。

グッドイヤーウェルト製法に改造する場合は中底の交換など、1から靴を作る場合以上の工程がかかる。またマッケイ製法で作られた靴はアッパーの革が薄い、または柔らかいことが多く、グッドイヤーウェルト製法に求められる耐久性がない場合も多い。しかし、ブラックラピドの場合は工数が少なく、アッパーへの負担もさほど問題にならないことが多い。

ブラックラピド製法では出し縫いが入るため、必然的に見た目はグッドイヤーウェルト製法のようにコバが張り出したものになる。見てくれをさらに近づけたいなら、イミテーションのウェルトを入れることもできる。武骨なシルエットにしたければ、ストームウェルトにしても面白いだろう。

ブラックラピド製法にするとどうなる?

マッケイ製法の靴をブラックラピド製法にすると、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。ブラックラピドの特徴はマッケイとグッドイヤーウェルトの中間といったもの。別名「マッケイグッド」と呼ばれるほどだ。

今回はマッケイ製法からの改造になるので、マッケイ製法と比較したメリット・デメリットを説明していく。

メリット

オールソールできる回数が増える

マッケイは2〜3回オールソールできると言われている。もちろん中底の状態を良好に保つことができればそれ以上の回数も狙うことができるが、ブラックラピドにすることで回数を増やすことも可能だ。

クッション性が増す

アウトソール1枚の状態から、ミッドソール+アウトソールの2枚になるため、当然路面からの衝撃を吸収する力は上がる。

ソールの選択肢が増える

グッドイヤーウェルト製法で使うことを前提に開発されたソールを使うこともできるようになるだろう。

ダイナイトソール

ダイナイトソール

例えば、ダイナイトソール。マッケイの場合、縫い目がソールの内側に寄るため、ソールパターン(円状の突起)に干渉することが多い。しかしブラックラピドにすれば出し縫いの位置がグッドイヤーウェルトと同じ位置にできるため、アッパーの耐久性が許せばどんなソールでも使うことができる。

デメリット

靴の重量が増える

ソールが2枚になることで当然重量は増えてしまう。履き心地はまるっきり違うものになることは覚悟しておくべきだろう。特に、重めの底材を使う場合はなおさらである。

また重いソールにする場合はアッパーの耐久性と釣り合っているか慎重に確認する必要がある。腕のいい良心的な修理屋さんであれば親身に相談に乗ってくれる。もし釣り合わないソールを希望した場合、プロの立場から待ったをかけてくれるはずだ。

返りが悪くなる

これも避けようがないデメリットの1つ。グッドイヤーウェルトほどではないものの、ソールが2枚になる代償として覚悟しておくべきだ。

返りが悪くなるとつま先の摩耗が早まる。ビンテージスチールやゴムを追加でオーダーして予防しておくのも賢いやり方ではあるだろう。

重要なのは「何のために製法変更するのか」ということ

ここまでお聞きになって、どうすればよいか悩む方もいるだろう。どんな要素を捨て、何を得ればいいのか、迷う気持ちはとてもよくわかる。

その際に意識してほしいのは「どんな目的で製法変更をするのか」ということ。

マッケイでもオールソールはできるし、大切に扱えば5年から10年は愛用することができる。ただ耐久性をもたせたいだけであれば、安易に製法変更するよりも日頃のお手入れを欠かさず行うほうが効果があるだろう。

もしあなたが「グッドイヤーのほうがマッケイよりも格上だから」「今の靴に思い入れはあるけど、マッケイなんて安物だと言われているから」という理由で製法変更に踏み切るのであれば、お金と手間の無駄になるのでおすすめしない。

グッドイヤーばかり勧めている私が言うのも説得力がないが、マッケイにはマッケイの良さがある。実際私も通年マッケイのローファーを愛用していた時期があるくらい、マッケイ靴が好きだったりする。あなたの大切な靴なのであれば、マッケイの良さを味わい尽くすぐらいの勢いでいるほうが絶対にいい。

しかし、それでも「履き心地を改善したい」「今のソールが限界だが、今後何度もオールソールをして20年以上愛用したい」と思うのであれば、そして軽さや返りといったマッケイ特有の扱いやすさ、履きやすさをスポイルしてもいいのであれば、迷わずブラックラピドに変更するのがいいだろう。

カスタム靴の楽しさは新品の靴をとっかえひっかえすることでは得られない楽しみがある。そういった世界に愛用の靴と踏み入れたいのであれば、是非試してみて欲しい。

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