一口に「革靴」といっても、様々な色や形がある。カジュアルなものから、フォーマル(に見える)革靴が市場にあふれている。
「普段スーツだけど、冠婚葬祭まで使える革靴はないかな・・・」
「普段カジュアルなので、ここぞというときに使える革靴はなにか知りたい!」
そうお考えの方も多いのではないだろうか。
「ビジネスからフォーマルまで使える、一張羅の革靴はなに?」
こう聞かれると、筆者の答えはただ一つである。
目次
フォーマルに使える革靴は、「黒い内羽根式ストレートチップ」
革靴の中で最もフォーマルなのが「黒い内羽根式ストレートチップ」である。上記の写真がまさにそれだ。つま先に一文字の切り返しがついているのがおわかりいただけるだろうか。
靴の場合、フォーマルには「黒」一択
お葬式や結婚式で茶色の革靴を履く人は少ない。
一番メジャーなのはやはり「黒」である。
ここは多くの方がご納得いただけるところではないだろうか。
また、ビジネスシーンでも、最もかしこまった場面では黒い靴が使われる傾向にある。
これは古今東西の共通認識で、ドレスの歴史を見てもフォーマルな靴の色は「黒」と相場が決まっている。
「内羽根式」のほうが、「外羽根式」よりもフォーマル
さて、「内羽根式」と「外羽根式」の違いはなんだろうか。
紐を通す部分(アイレットという)を見てほしい。
アイレット部分のパーツが潜り込むようについているのが内羽根式、飛び出すようについているのが外羽根式だ。
後者よりも前者のほうがフォーマルとされている。
外羽根式は機能性を重んじる軍靴をルーツとしている。
甲周りが楽で、脱ぎ掃きもしやすい。
他方フォーマルやドレスというものは機能性の対極にある概念で、いかに凛として(シュッとして)見えるかに重きが置かれている。
内羽根式は外羽根式に比べて見た目がスマートなため、フォーマルでも受け入れられるのである。
一文字の「ストレートチップ」は、最もフォーマルなデザイン
ただし、これはあくまでつま先のデザインに限った話である。
内羽根式の紐靴仕様であってはじめて「フォーマルなデザイン」ということができるのだ。
つまり、バックルなどがついているとフォーマルなシーンには使えなくなる。
また、ストレートチップであっても穴飾りがついている場合は、少しカジュアルな要素が入ってくる。
単純な切り返しになっている点が、正式なフォーマル靴の条件でもある。
そもそも「フォーマル」とは?「ビジネス」の違い
さて、フォーマルフォーマルというけれど、「フォーマル」とはなんだろうか。
一般的には、漠然と「カチッとしている」という意味合いで使われることが多いだろうが、これはあまり正しくない。
では、正しい「フォーマル」の定義とはなんだろうか。
少なくとも日本においては、ほぼ「冠婚葬祭」に限定されると思っていただいて構わない。
そして、フォーマルにもランクが存在する。
●正礼装
燕尾服
モーニングコート
●準礼装
タキシード
ディレクターズスーツ
●略礼装
礼服(マットな質感の黒スーツ)
これらのいずれもが非日常で着るもの。決して仕事やデートでは使わないだろう。
他方、似て非なる概念として「ビジネス」というものがある。
これは文字通りホワイトカラーの仕事着の意味合いを持つ。
具体的に言うと、ネイビーやグレー系の梳毛(一般的なスーツに使われる、ツルッとした質感の毛織物)のスーツなどが挙げられる。
つまり、フォーマルよりも少しだけくだけたシーンを指すのである。
ここで押さえておきたいのは、ビジネスとフォーマルを混同してはならないということだ。
フォーマルな革靴は、ビジネスでも流用が効く
しかし、上記はあくまで服の話である。
フォーマルでもビジネスでも使える服はないが、靴は違う。
黒い内羽根式ストレートチップは、ビジネスでも使うことができるのだ。
ネイビーかグレーのスーツなら、どんなスーツにも合うだろう。
無地はもちろんのこと、ストライプが入ったスーツにも難なく合わせることができる。
当然、フォーマルでも使うことができる。
礼服はもちろんのこと、タキシードやモーニングなど、一生に何度着るかわからない礼装にも最適解となる。
カジュアル領域以外におけるこの使い回しの良さが、「黒い内羽根式ストレートチップ」をおすすめする最大の理由なのだ。
フォーマルな革靴の種類は他にもある
「黒い内羽根式ストレートチップ」以外にもフォーマルな革靴は存在する。
しかし、靴屋を覗いてみてもめったに見かけることはないし、その特殊性から持っていても一生に数度しか使わない靴になってしまうだろう。
ここでは、あくまで「フォーマル」に関しての理解を深めるために、そうした「変わり種」の靴をいくつかご紹介しよう。
黒の内羽根式プレーントゥ
一見普通の革靴である。
しかし、「プレーントゥ」で「内羽根」となると市場にはほとんど流通していない、レアな革靴となる。
プレーントゥ自体は市場に多く流通しているが、そのほとんどは「外羽根式」だ。
「じゃあ、運良くレアな内羽根式プレーントゥを見つけたら、内羽根式ストレートチップと同じように使えるの?」とお考えかもしれない。
たしかに「内羽根式プレーントゥ」は「内羽根式ストレートチップ」と同じくビジネスからフォーマルまでカバーできるものの、少し使いにくい靴なのだ。
その理由は、ストレートチップよりも少しだけ華やかなニュアンスを持った靴という点にある。
つまり、半分パーティシーン寄りの靴なのだ。
たとえばモーニングコートにはこの靴よりも「内羽根式ストレートチップ」がふさわしいと言われている。
有名なのはジョンロブの「ベケッツ」。
独特なパターンが目を引くが、スタイリッシュな造形と相まって華やかさを一層強めている。
オペラパンプス
「パンプス」とあるが、れっきとしたメンズの靴である。
正礼装でないと使えない、とても難易度の高い靴だ。
エナメルレザーで作られており、黒いリボンが付く。
この靴の難しいところは、「とても」華やかな性格を持つこと。
つまり、本人としての結婚式の披露宴や格式高いパーティぐらいでしか出番がなく、式典では使えない。
フォーマルな革靴で買うべきは、やはり「黒の内羽根式ストレートチップ」
上記のフォーマル靴はどちらも華やかな性格を持つ靴である。
すなわち、お葬式などの「厳格な」フォーマルシーンにはあまり似つかわしくない。
しかし、黒の内羽根式ストレートチップなら厳格なフォーマルから華やかなフォーマルシーンまで、幅広く対応できる。
我々一般市民が買うべき一張羅の革靴は、ストレートチップを置いて他にはないというのが筆者の見解だ。